自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

長女のピアノ教室であった出来事(嫁と長女から聞いた話)

3年ほど前の長女がピアノ教室に通っていた頃の話。僕はその場には立ち会っていないが、大事な事だと思うので、聞いた話ではあるけどもブログに記しておきたい。

 

通っていたピアノ教室

長女はどこにでもあるピアノ教室に通っていた。ピアノのレッスンは先生の自宅で行われていて、長女がレッスンを受けている間、嫁もその教室でボケっとしていた(コラッ!)。僕も一度その教室に送り出した事があるが、失礼ながら何の特徴もない普通の教室(家)。先生自身の見た目は凄く個性的だったが、一生懸命娘にピアノを教える姿は好感が持てた。

 

 

先生に異変が・・・

その日もいつも通り嫁と長女の2人でピアノ教室へ向かった。ただ、その日は先生の様子がいつもと違っていた。頭髪は寝ぐせがついたままの様なボサボサで目も虚ろ。その上喋り方までろれつが回っておらず、完全にいつもと様子が違っていた。一応玄関まで迎えに来てくれ、

「どうひょ、こひらへ・・・」

と明らかにピアノを教えられる状態ではなかったが、案内されるがまま流れに任せた。そしていつも通りピアノの前に長女が腰かけたその時である。

 

 

ドスン!!ブクブクブクブク)

 

 

先生が倒れた!と思ったら泡吹いた!!突然の事に嫁と長女は戸惑って身動きできない状況。泡吹いた人間を初めて見た事もあり、どう動けばよいのか分からないのだ。すると急にムクッと起き上がった瞬間!

 

 

アアアアアァァァァァーーーーー

 

と白目を剥きながら全身を強張らせ、耳をつんざく大声で絶叫した!

何事か分からず、茫然としてその場でフリーズした嫁と長女。言葉を発する事も出来ず、先生の様子を見守る事しかできなかった。

 

ななななななな、何????

 

 

その後急に立ち上がって歩き出し、壁や物にぶつかりながらトイレに入ったと思ったらズボンを半分おろした状態のまま出てきてウロウロし出した。あっちに行ったりこっちに行ったり。まだ一言も発する事が出来ない嫁と長女。呆気にとられ、身動きできぬまま先生に目が釘付けに。するとまたバタッと倒れた。急な出来事にパニックの嫁と長女。先生は倒れた後に「グガー、グガー」と大きなイビキをかいて、寝た。

 

ここでやっと「ハッ」とフリーズしていた嫁が動き出した。先生の家の中に家族は不在。こうなったらとりあえず救急車に電話するしかない。急いで救急車に電話して来てもらった。その間、長女があまりの恐怖に耐えかねて流し台で吐いた。ピアノ教室が一瞬にしてパニックに陥りながらも嫁は必死になって、しかし努めて冷静に対処した。10分程度で救急車が到着し、先生は病院に運ばれて嫁と長女は帰路に着いた。

 

その後の話し合いについて

僕が仕事から家に帰るなり、ピアノ教室で起きた出来事を聞かされた。詳しくはないけど、症状からすると「てんかん」だろうと思う。

 

嫁:あのピアノの先生何考えてるの(怒)!!こないだみたいに長女だけ1人預けてたらあの先生どうなってたか分からないわよ!そうなったら長女の心に傷がつくじゃない!!どう思う!!?

 

長女:怖かった。とっても怖かった。もうピアノ行きたくない。

 

僕:まぁ、それは行きたくないわな。そんな怖い思いしたんなら。

 

嫁:そうよ!そうならそうって言ってもらわないと、子供一人預かって発作が起こったらどうするつもりだったのよ!子供が可哀想じゃない!もう長女も行きたくないって言ってるし、辞める。あの先生は信用出来ない!!

 

 

この日、僕も起こった出来事の重大さが分かってから、ピアノの先生を信用できなくなった。ウチの子が一人でいた時に発作が起こったらどうしてくれるのか。先生の身ももちろん大事だが、持病持ちであるならそもそも誰か1人身内の方を居させる事が常識だろう、と。

 

でも、翌日冷静になって改めて考えてみた。ピアノの先生だって、てんかんになりたくてなってる訳ではない。確かに先生にも落ち度はあるかもしれないけど、事前に「私はてんかんなので何かあったらココに連絡して下さい」なんて生徒に言ってると生徒なんか集まるはずないじゃないか。先生だって生活があるし、食っていかなければならない。今回の出来事で「先生がそんな事するからピアノ辞めます」と言うのは簡単だ。ピアノ教室に通う選択権はこちらにあるのだから。しかし本当にそれでいいのか?自分の子供に「怖い思いをしたから辞めていいよ」って教育するのは違うのではないか。困った人には手を差し伸べる教育を目指している僕にとって、それは間違っていると気付いた。家に帰り、また嫁と長女の三人で話し合いの場を設けた。

 

僕:長女が怖い思いをして、もうピアノに通いたくない気持ちは理解できる。でもそういう病気の人も世の中にはいるんだ。色んな人がいる。それでも頑張って食べていくために必死に働かなくてはならないんだ。

 

長女:でも、もう怖いの嫌だもん。ゲロ吐く程怖かったんだよ。先生の顔見るのも怖いよ。

 

僕:そうだよな。それは大人でも怖いはずだ。まぁ俺の話を聞いてから、最終的にはピアノを辞めるか辞めないかは自分で決めればいいから。無理に続けろとは言わないから。

 

長女:・・・。

 

 

僕:先生はこの病気に苦しみながら生きているかもしれない。不安と戦いながら生きているって考えると少し可哀想に思う。いつ発作が起こるか分からない病と一生付き合っていかなければならないなんて、健康な俺からすると考えられない。でも先生はそんな病気を持っている。もちろん、もちたくて持ってる訳じゃない。生まれつきかもしれない。

 

長女:・・・。

 

僕:それが自分だったらどう?自分でも防ぐことの出来ない発作に対して健康な人が「あの人発作が起きるからやめとこう」とか言われると嫌な気持ちになるだろ?もし今長女がピアノ辞めたら先生はきっと「自分が発作を起こしたからだ・・・」と思うはずだ。とても傷付くはずだ。だって、どうしようもないんだから。長女が怖い経験をした事は分かるが、だからと言って今ピアノを辞めるのは間違ってると俺は思う。先生を傷つけない為に辞めてはいけないと言っているのではないぞ。てんかん発作のような防ぎようのない病を持っている人は世の中にいて、その人達を理解する事が大事だと俺は思ってる。怖い怖いと見たくないものにはフタをして、人を避ける事は最もやってはいけない行為だと俺は思う。

 

嫁:そんな難しい事言われても・・・。でも、わざとではないってのは確かにそうよね。その時の出来事が怖すぎて自分でも考える事を避けてたかもしれない。救急車呼んだのなんて初めてだったし・・・。

 

僕:今答えを出さなくていいから、ちょっと考えておいて

 

長女:うん・・・。

 

 

自分でも長女には酷な事を言ったと思う。自分が長女の立場だったらもう二度と行きたくないはずだ。今まで接してた先生が急に白目剥いて大声で叫び、下着姿で歩いてまた失神する。文字にしただけで相当怖い。そんな体験をした小学校3年生に、まだ通えと言ってるわけだから。でも考えている事は隠さず伝えるのが僕のポリシーだ。だから迷った挙句、やっぱり伝えた。
翌日・・・。

 

長女:ピアノ続ける。

 

自分の想いが伝わったと喜ぶ半面、本当は行きたくないはずなのに・・・と思うと胸が痛くなった。その代わり、ピアノ教室に行くときは必ず嫁と一緒に行く事が条件となった。これには僕ももちろん同意した。

 

 

あれから時が経って長女は「もっと遊びたい」という理由でピアノを辞めてしまったが(笑)、あの時の事は良かったと思っている。少数の声なき声に耳を傾ける事が出来る人に育ってほしいと思うばかりだ。