自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

コンビニエンスな日々⑦ ~不正しまくり店長と悩む僕~

前回の様子

 

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 ~続き~

両替用金庫から10万円が消えている。この金庫内の金額は変動する事なく常に30万円だ。更に金庫に触れるのは店長か副店長の2人しかいない。そして俺ではない。って事は店長が何らかの事情で持ち出した?

 

 僕:店長、金庫のお金が合わないんですが?

店長:あ、あぁ、お前は何も知らんでいいから。これからは俺が金庫のチェックするから。

 僕:はぁ。そうですか。

 

この時は深く考えずにその場を後にした。日頃の業務で疲れているし、最悪何かあったとしても店長責任になると頭の隅にあった為、見て見ぬフリをした。

 

後日、店長が休みの時に金庫のチェックをした時の事だ。(1日1度は最低でもチェックしなければならず、店長が休みの時は僕がチェックせざるを得なかった。)今度は17万円もなくなっている。どゆこと??ありえない事態に困惑した。本来あるはずの両替用30万円が金庫内に13万円しかない。これでは週末乗り越えられない(土日は金融機関が休みの為、金曜日に大量に両替しなければお金が回らない)。ってかそれ以前にお金がないって事が本来あり得ない。

この時、店長に電話をしたら現金を持ってきて「お前は何も気にしないでいいから」とカッコをつけた。まるで「これは全て俺の責任だから」とでも言いたげだ。ドラマで聞いたような歯が浮くようなセリフに苦笑しつつ無言で現金を受け取り業務に戻った。
 

思い返せば最近変な事が立て続けに起こっている。一番最初に起こったのは10月末の年賀状発売日だ。発売日初日にとんでもない数の販売目標を上から勝手に立てられるのだが、それを倍以上の数字でクリアしたのだ。ちなみに初日販売目標5000枚のところ、10000枚達成。当時年賀はがきは1枚50円だったので500,000円の売上だ。

そんな目標数をクリアするのはおよそ不可能だ。年賀状の売上は毎年落ち込んでいるにも関わらず前年の3倍以上の売上を店長が作った。どうやったかは知らない。ちなみにアルバイト、パートからの販売はゼロだ。僕はどうせ使うので100枚程買ったが。残りの9,900枚は店長個人で売った計算になる。

どうやったのか不審に感じたが、上司であるSVも結果にご満悦の状況であり、特にツッコんで聞くことはしなかった。(触りだけは店長に聞いたがはぐらかされた)

 

また、その間に棚卸があった。
※棚卸とは帳簿在庫と実在庫の数(金額)をチェックする(合わせる)作業。利益を確定させる重要業務。

あり得ない商品が何個も紛失している。プレステ3、すべらない話などの人気タイトルのDVD、タバコ(何銘柄もカートン単位で紛失)等。全てカウンター裏に置いてある高額商品だ。という事はお客さんの万引きではない。もちろんレジの打ちミスで帳簿在庫(本来ある在庫数)より実在庫(実際にある在庫)が少なくなっている場合もある。しかし多すぎる。今まではこんな事はなかった。特に問題なのはプレステ3だ。プレステ3はお客さんがレジで注文し、お店に届いたらお客さんが取りに来て売るというシステムだ。しかしプレステ3の在庫は棚卸上で-1個となっている。もし紛失していればお客さんに渡せないではないか??

この時は「バイトが不正に内引き(バイトの万引き)している」と思い、大慌てで店長に報告した。が、何やら自分で調べると言ってこの時はそれ以上話す事はしなかった、というかこの話をしたくない様子だった。

店長は何か知ってる??

 

この時に初めて直感した。
そして今回のボージョレ・ヌーヴォー解禁日(毎年11月第三木曜日)だ。
ピーク時は飛ぶように売れたこの赤ワインも今となっては一週間もすれば値下げしなければ捌けない厄介な商品だ。にも関わらず、店長はとんでもない数を発注していた。店長の発注なので、僕は知らんぷりを決め込んでいたのだが、なんと当日に全て売り捌いた。誰に?それが分からない。初日に売れても1日3,4本てところだろう。そこをウチのコンビニエンスは50本以上売っていた。少なくともデータ上は。

 

僕:店長、これ誰が買っていったんですか?

店長:最近お得意様が出来て赤ワイン好きみたいでな。ボジョレーの話したらまとめてたくさん買っていってくれたよ。

 

と言う店長からの話を信じるわけにはいかない。そんなお客さん見たことがないし、そんな都合よく現れるハズがない。コンビニの割高商品をそんなに大量買いする人はまずいないと言っていい。バイトに聞いてもそんなお客さんは見ていないと言う。ますます疑いが強くなってきた。しかし相手は自分の先輩であり、僕を指導する立場の人だ。問い詰める訳にもいかない。担当SVも最近店長は数字を作るとご機嫌になっており、評価もうなぎ上り状態。僕一人だけが不信がっていてやりきれなかった。

 

僕の仮説だが、店長は一刻も早く昇進したかったのだ。その為には不正も厭わず、空虚な数字を実績として残し、上司にアピールし続けた。しかし僕はこんな事をする為にコンビニエンスに入社したわけではない。商売のなんたるかを、この激動の時代の中で増々強くなるコンビニエンスから学ぶ為に入社したのだ。

 

この時は悩んだ。相当悩んで鬱病だったと今では思う(病院には行ってない)。当時は「自分が鬱病」だと発想すらしなかったが、休みの日なんかは悩み過ぎて体が動かなった。1歩も外に出れなかった。店長が不正を働いているのを見逃して上司に相談もせず、ウチのお店が評価を高めている事が嫌で嫌でたまらなかった。しかし僕は弱い人間だと今さらながらつくづく思う。弱い人間ゆえに言えなかった。告げ口できなかった。上司のSVは数字を作る店長に溺愛していると言っても過言ではなく、「俺の教え子」とまで周囲に自慢している姿を見るととても言い出せなかった。人一倍プライドの高い上司で地区のエース的な存在。「自由君も店長の様に立派な店長になるよう、今のうちに勉強しておくんだよ」と言われた時は心の内で大声で誰にともなく叫んだ。全てをぶちまけたい衝動に駆られたことは数えきれない程あった。しかし、毎日が猛スピードで過ぎていく多忙なコンビニエンスな日々の中で埋もれてしまい、言うタイミングを逸していた。告発するにはもう手遅れなほど不正金額は膨れ上がり、お店の実態はもう帳簿上では把握できないほどウソにウソを塗り固められていた。

 

正直に言うと、もうこの時期に告発したところで自分も同罪だというのが分かっていた。毎日悩んで悩んで、血尿まで出てきた。体に不調が出る程までに何で俺が悩まなければならないんだ・・・。悩みが、苦悩が徐々に怒りに転じてきたのがこの頃。「こんなクソみたいな店長と同罪になんか絶対に嫌だ」そう思うようになってきた。毎日毎日店長と顔を合わせる度に膨れ上がる怒り、憎しみがある限界に達した時に「一刻も早く店長になってコイツと縁を切ってやる!!」そのように脳が強引に割り切った。
(この怒りがなければおそらく僕は入院していたと思う。全てに絶望していた)

 

 

年末はコンビニエンスにとって悪魔の様な時期だ。12月は単純に客数増に加えてイベント目白押し(ボーナス、お歳暮、クリスマス、年賀状印刷、おせち他)で凄まじく忙しい上にとんでもない数字を求められる。その中でもクリスマスケーキが最も悪魔の商材だろう。ウチのお店は店長の不思議な力で全ての商材で地区トップの数字を叩き出していたがクリスマスケーキは平均の4倍程の数字になっていた。おそらく200件程だったと記憶している。クリスマスイブ当日、僕は数少ない本当のお客様のお宅へケーキを配達していた。配達から戻るとあれだけ大量にあったケーキが全てなくなっていた。

 

僕:店長、ケーキはお客さんが取りに来たんですか?

店長:あぁ、さっきみんな取りに来たよ。大変だったよ、一気に来たから。

 

ウソだ。僕がケーキを配達したのは1時間30分くらいのもんだろう。そんな程度の時間で150件以上のケーキを捌けるはずがない。この頃になると店長は僕が不正に気付かないようにビクビクしていた。気付かないはずがない。だってお客さんの顔が1人も見えないのだから。この店長とは必要以上に関わらないと決めていた為、これ以上は聞かなかった。そんな事で1日1日死んだように仕事をしていた。この頃が生きていた中で一番辛かったかもしれない。

 

 

 クリスマスも終え、年末までのほんの一息つける12月26日。いつものごとく僕は早朝6時からシフトカバーに入っていた。この日店長は前日残業で遅くなった為、13時出勤となっていた。が、定刻になっても来ない。お疲れか?と思ってしばらく待っても来ない。30分経っても来ない。1時間経っても来ない。何度も電話をかけているが電話にも出ない。こんな事は初めてだ。何かあったのかもしれないと思い、アルバイトにお留守番を任せて店長宅に自転車で駆け付けた。妙な胸騒ぎがして、変な事件に巻き込まれていないか、この時初めて店長の身を案じた。不思議なもんであんなに憎んでいた店長でも一応は心配する心の余裕は持ち合わせていたようだ。この事実に自分自身少し安堵した。

 

店長のアパートに到着。店長所有の車は・・・ある。アパートのインターホンを何度か押すが出ない。その場で携帯を鳴らしてみるも、部屋の中から着信音はない。出かけているのか?今度は車に近づき、中の様子を見てみた。

 

 

 

 

 

車の後部座席にクリスマスケーキが大量に投げ込まれている!!ぱっと見でも100個以上はあるだろう。遂に動かぬ証拠を見てしまった。この世で一番見たくなかったものだ。この瞬間に脂汗が体中から吹き出て、眩暈で倒れそうになったのを覚えている。息を切らしながら自分を落ち着け、もうこうなったらヤケクソだ。見れるものは見てやろうとポストの中も漁った。消費者金融からの大量のハガキ、督促状。なんだこれは。消費者金融からカネ借りてまでして自分で買っていたのか??店長宅の1Fのベランダも覗き込んだ。そこにはボジョレー・ヌーヴォーが箱のままで何十本も雨ざらしになっている。そうだ。あの人は酒が一滴も飲めない。

 

見てはいけない物を見てしまった、と同時に店長の身を案じて駆け付けた自分に無性に腹が立った。こんなバカなヤツの為に俺は何をしているのだろうか。もうどこでどうなっていようと知った事ではない。誰がコイツの為に何かする気になるというのだろうか。さっき覚えた妙な胸騒ぎは店長の身に何かあったのではなく、こうなる事を予感したものであったものではないかと腑に落ちた。その事が少し笑えたのが唯一の救いだった。こんな状況でも一応笑える感情はあるのだと。

 

ピリリ、ピリリ

 

店長からの着信だ。

 

 僕:はい。

店長:あ、すまんすまん、電話なんだった?

 僕:え・・・。今日13時から出勤のはずですが。

店長:え?そうだっけ?いいや、あとで予定変更して休みだった事にするから。クリスマスも終わって地区トップの数字残してるから上も何も言ってこないだろうからさ。お前も適当なところであがっていいよ。

 

・・・死ね。内心でそう毒づいた。もういい加減うんざりだ。何でこんなクソみたいな人間に振り回されなければならないんだ。やってられるか。

 

一気に疲れ果てたが、やる事はやらなくてはならない。あとバイトに気付かれてもいけない。また自転車でお店に戻り、業務をこなす。もう考えるのも疲れていた。相談する人もいない。どうにでもなれ、だ。毎日死んだ魚の目をして働いていた。仕事をしていたというより、マニュアルをこなしていたという感じだ。バイトにも「副店長大丈夫ですか?」とよく言われた。全然大丈夫ではないけど、「大丈夫だよ」と言うしかない。

 

初めて仕事を辞めたいと考えた。自慢じゃないが、僕は一度やると決めたら石にかじりついてでも貫き通してきた。入社してSVになってお店に的確なアドバイスが出来る程立派になる事が目標だった。なのに、もう心が折れかけていた。折れていたかもしれない。なんの目的もないまま多忙な年末年始が過ぎ去り、真剣に退職を考え始めていた時。

 

 


店長の内示が出た。(続く)