自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

コンビニエンスな日々⑤  ~初めての「仕事」~

 

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~続き~

求人チラシ撒きを終えてお店に帰ってきた頃には汗だくになっていた。
真夏のこの時期は陽が落ちてもまだまだ暑い。
近隣の巨大集合団地に1000枚程撒いたが、日頃の運動不足がたたり階段の上り下りを何往復もするには筋力が圧倒的に足りず、太ももがプルプルしてもう動ける状態ではなかった。

でも撒き終えたぞ!
シフトが埋まっているこの日を狙ってポスティングを実行。目的を果たしたので今日はもう疲れたから帰ろうと決めた。夕方シフトの高校生に挨拶して今日は帰る事にした。
注)夕方シフトは17時〜22時シフト
明日は早朝6時からシフトカバーだ。帰って早く寝よう。

完全に寝るだけの部屋となったアパートの一室。毎日毎日疲れ切って帰ってくるこの部屋にも妙な愛着が出てきた。
9時30分にはもう寝る準備完了。後は寝るだけ。久しぶりにテレビでも見ようと思い、くだらないバラエティを見ていた。するといつの間にか寝落ちしており、携帯の着信音で起こされた。
はっ、として時計を見ると10時10分。
着信はもちろんお店から。
この時間、店からの電話は嫌な予感しかない。
なぜなら深夜シフトの入りが10時だからだ。この時間の電話の95%以上は「深夜バイトが来ないんですけど」だ。

恐る恐る電話を取った。
「深夜バイトが来ないんですけど」
うむ。
予想と一言一句同じ言葉が返って来た。
とりあえず、出勤するはずの佐藤君に電話をかけた。
「ゴホッゴホ、すみません、風邪ひいてて、電話できませんでした」

はい最悪。今からシフトカバーで深夜勤務確定。今頃電話してんじゃねー!!と怒鳴り散らしてやりたいところではあったが、10時過ぎて高校生を働かせるわけにはいかない。
電話を切り、着替えてすぐにお店に走った。太ももが痛い。
(深夜勤務は副店長という暗黙のルールがあり、店長は基本日中に出る)

昨日は早朝6時から勤務、帰宅が夜8時。その後呼び出しくらって夜10時から翌日17時までシフトカバーしてその後事務処理だ。
考えただけでクラクラする。今月だけで呼び出しは3回目だ。眠い・・・。
それでもお店は24時間営業だ。泣き言言ってもお客さんは来店する。それにお応えするのがコンビニエンス人間というもの。

 

「いらっしゃいませー」
「ありがとうございましたー」

 

 


朝の発注が終わって流石に疲れたので、お客さんが少ないタイミングを見てパートさんに了解取って仮眠させてもらった。
あぁ、やっと寝れる。デスクに突っ伏して、高校生の頃にマスターした授業中に居眠りする姿勢を再現し、寝た。
と寝落ちした瞬間、

プルルプルル


次は誰だよ!!いい加減寝かせてくれよ!
携帯を取ると表示はない。寝ぼけていたのか、
携帯ではなく、お店の固定電話からの着信音だ。

あ、こっちか。
受話器を持ち上げ応答すると

「もしもし、昨日求人広告が入っていたので電話したんですけど」

え?求人?あ!!そうだ、昨日のことなのにすっかり忘れていた!!
深夜の緊急呼び出し、長時間労働、寝不足、疲労がで完全に失念していた!!
昨日撒いた求人チラシを見て応募してもらえたのだ!!やった!!
早速面接の日時を取り決め、電話を切ったと同時に誰もいない事務所で1人ガッツポーズを決めた。眠気なんか吹っ飛んだ!!

やった!これを皮切りにたくさん応募が来るかもしれない。この状況が改善されるかもしれない。それより何よりも、すんごい嬉しい!!
あれ?なぜこんなに嬉しいのか。
それは与えられた事ではなく、自分で考え、行動する事でバイトの面接にこぎ着けたという事実が嬉しかったのだ。
僕がチラシを撒かなかったら100%この方はバイトに応募してこなかったはずだ。
副店長に着任して初めて僕が仕事をしたと感じた瞬間だった。
楽しい!嬉しい!
もっと仕事がしたい!
もっとお店を良くしたい!!
体は寝不足、疲労困憊でボロボロだったけど、心はスッキリして爽快な気分で胸がいっぱいになっていた。