自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

お父さんと私って血は繋がっているの?

「お父さんと私って血は繋がっているの?」

 

 

唐突に語り掛けるような長女からの問いかけだった。

朝7時にお互いに寝ぼけ眼でいつもの平日が始まろうとしていたところに、脳が覚醒するような一撃を急に放ってきた。この様な質問を忘れたころにしてくる娘に少し恐怖する。いつも朝から晩まで喋って遊んで自由気ままに過ごしているのは実はまやかしで、心の中は闇で覆われているのではないか、と想像してしまう。というのも、僕と長女は血が繋がっていないからだ。

 

そこまで珍しくもない、と僕は思うのだがやはり子供の立場に立って考えると不安に駆られる部分もあるのだろうか。3人兄弟の下2人は再婚後にできた子だ。長女は連れ子の為にセンシティブに考えてしまうのも無理はない。長女は最近まで自分の血液型が分からなかったが、(よく分からないが何にも記録がなかった。私も血液型に興味がないのでそれもいけなかったが)自分以外の家族が全員O型だという事は分かっていた。それゆえ自分だけO型じゃなかったらどうしようと不安になっていたようだ。僕としては血液型なんて関係ないし、何の意味もない。輸血する時に確認する為だけだから、と考えているしそのように娘にも話してきた。でもそういう事ではなく、子供なりに自分だけ違うのは悲しい事なのだろう。そう思うと少し切なくなってくる。

 

ある日、小学校の血液検査で強制的に知る事になり検査結果を持ってきた。結果はO型だった。うむ。喜んでいる。とても喜んでいる。良かったな!と素直にそう思えた。僕も口では「O型だからって良い事なんかないよ」と厳格な父を装いつい嘘吹いてしまうが、胸の中は熱くなった。O型じゃなかったら・・・と余計な事も考えてしまうが、結果としてO型だったから、結果オーライだなと開き直ったのを思い出す。大事な事は娘が「家族と一緒で良かった」と想う気持ちなんだと自分に言い聞かせた。

 

話を戻す。血が繋がっているのかどうかについての問いかけに対し、

「血は繋がってないよ」

とだけ返した。この間いろいろ考えた。この件に関しての今までのやりとり、娘との関係性等、寝ぼけ眼ながらもそれなりにフル回転だ。何が正解か、傷つけない言葉は何か、別の方向に流すか、スルーするか・・・。でもこれって正解なんてない。それは分かっている。もしかすると娘が1番分かっているのかもしれない。4歳で急におじさんが現れて急に今日からお父さんだからって言われても、子供に受け入れられるはずがない。でもこの娘は最初から受け入れてくれている様に感じていた。それは小学6年生になるまでずっと同じだ。けれどもやっぱり、心の中で不安になってたまに表に出てくるのかもしれない。血の繋がり、自分だけ二重まぶた、二人目の父親、これからの人生でキーワードが出てくる度に思い返すのかもしれない。だからこそ僕はごまかさずに言おうと思う。正直に。

 

「血は繋がってないよ。それがどうした?」

 

これが娘の不安を取り除く言葉なのか、なんて分からない。でも僕は血よりも、見てくれの違いよりも、今まで過ごしてきた時間、これから先の事を大事にしてほしい。そうゆう思いで接していこうと思った今日の朝・・・。あーーーービックリした。