今日のお弁当

妻よ、僕が何か気に障る事をしたのなら話してほしい。いつも通りの朝、食事、見送りだったと記憶しているが、それは間違いだったのだろうか。毎日お弁当を作ってくれて本当に感謝している。とても美味しく頂いている。味についても満足しているし、不味かった時は一度もない。だからお弁当について不満を言ったことはないはずだ。お弁当のサイズが小さいのは僕がその様に希望したからだ。写真にはないが、フタにアンパンマンのイラストが描かれている。以前は息子が使用していた保育園児サイズだ。いつもはトマトや卵焼き、野菜炒め等が添えてあり、デザートがついている時もあった。疲れた時もこのお弁当を食べることで癒されていた。僕にとってコンビニで食べるお弁当より、マックのハンバーガーより、この園児サイズのお弁当が一番のお気に入りだ。

それが今日のお弁当はいつもと少し違っている。これは一体どうゆう事か。ご飯の上にサバ1切れ。のみ。これはこれで文句はない。文句はないのだが、妻の身に何かあったのだろうか、案ずる。サバを乗せ終え、次のおかずを乗せる時に倒れた？いや、出勤する時に玄関まで見送りに来たからそれはない。おかずを入れ忘れた？それも考えにくい。サバがお弁当の中央に鎮座しており、他のおかずを寄せ付けない威圧感がある。恐らくは「意図してサバ1切れ」の弁当なのだ。これはただ事ではない。昨日から今朝にかけ、何かただならぬ事が起こっている、フタを開けた瞬間にそう感じた。何度も回想したが、何も思い浮かばない。こういう時こそ悪い予感がするものだ。この予感をなんとか打ち消したく、集中して記憶を呼び戻すが完全に平凡な一日であった。分からない。少し冷静になってもう一度弁当を確認してみよう。ご飯とサバ。それ以外はなにもない。でもよくよく考えてみると、ご飯は玄米ご飯だ。玄米は白米よりも手間がかかる。白米同様に炊くとパッサパサで美味しくないから、前日から水に浸してから炊く必要がある。サバだって面倒くさい。冷凍されたサバ1切れだけをフライパンで焼くのはかなり手間だ。手を抜こうと思えばもっと出来たはずだ。これはどうゆう風に考えればいいのか、悩む。怒っているわけではないのか？それなら何故、この様な当てつけのような弁当に？もしかしたら試されているのかもしれない。夫婦生活7年、いつか来るであろう危機を迎えるに当たり、この様な非日常に、大黒柱としてどの様に対応するのか試されている？？よし、分かった。僕はこの危機を乗り越えてみせる。何事もなかったかの様な完食を遂行し、話題にも出さない大きな男の背中を妻に見せつけよう。「あんな弁当だったのに、何事もなかったかのように過ごしてるわ！」と妻を惚れ直させる良い機会にしよう。