自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

コンビニエンスな日々① ~発令式~

偉い人

「辞令、○○町○○店、副店長を命ずる」

 

「はいっ!(どこ??)」

 

 

発令式と呼ばれるこの日、僕は副店長の辞令を受けた。
僕が所属するコンビニエンスの会社は日本全国に点在し、売上も業界トップ3に入る。その為、「○○店に命ずる(キリッ)」と言われても、何地方なのか、何県かも分からず、ただ「はいっ!」と、とりあえず返事をしていればよろしいという儀式になっている。
偉い人の長く、ありがたい話をやっとのことで聞き終えてフリータイムになった時、その場で辞令を受けた全員が店名を検索し、所在の在処をスマホで調べるのが恒例だ。

 

「うわ、俺三重県かよ!」

「まだいいじゃんか、俺なんて山梨だぜ。」

「イェーイ俺引越しなし♪」

「・・・」

「お前どこなん?」

「島根・・・」

チーン

※島根の皆様、大変申し訳ございませんが、一般的な概念としてこの様な捉え方をされている事をお許し下さい。

 

毎回この様な光景がデジャヴとなって現れる。
日本全国どこに行くのか分からない、それがコンビニエンス社員。
もちろん研修先の近くがほとんどだが、例外はある。
急に僻地の副店長が退職した場合は人員を補充せざるを得ないからだ。

 

それはさておき、とりあえず僕も無事副店長の辞令を正式に受ける事が出来てホッとしていた。
副店長とはいえ、所詮数か月研修しただけのバイトに毛が生えた程度で現場では最初は使い物にならない。
そういう思いはあるけれど、定期的に実施される発令式で同期がどんどん発令されていくのを目の当たりにすると、自分の評価が低いのか?と心配になっていた。
研修生に評価のしようもないのだが。

 

そして引っ越しについては実のところ、辞令が出る1週間前に内示という形で引っ越しありの人間にだけ上司から口頭で伝えられる。
つまり、僕も1週間後には引越しありの辞令が出ることは知っていた。
ただ、何県のどこなのかは見当もつかない。
なぜこの様なスタイルを取っているのか、については考えさせる時間を与えてしまうと辞められるから、というのが通説だ。
ただあくまでもこれは都市伝説に過ぎず、こればっかりは末端の僕らには知る由もない。
僕自身としては引越しは嫌いじゃなかった為、何県であろうがどこでも別に構わないと思っていた。
とんでもない僻地と寒い場所だけは勘弁して欲しいとは思っていたけども、実際には3つくらい県を跨いだだけですんだ。

 

 

さて、ここからが引越しあり辞令を受けた者の本番だ。
辞令を受けた翌々日には引越ししなければならない。つまりは引っ越し業者への依頼、引越しの荷造り作業、引き継ぎ、挨拶などなど、なんだかんだ簡単にはいかない。
(引っ越し業者については提携会社があり、急な日程でもOKだった)
会社としては引越しありって通知したはずだ、とヤクザの様な言い分を盾にしており予定をずらす事は一切許されない。
荷物が少ない僕でも面倒くさい手続きが難航してずいぶん手間取った。
怒涛のスケジュールでなんとか引っ越し作業、手続きを終えていざ赴任先へ参ろう!

 

ガラガラの新幹線で一人孤独に考えにふけっていた。
引っ越した先でも踏み入れた事のない土地に1人、知らない言葉、文化に触れると本気で寂しくて考えただけで不安になる。
社会人になったはずだが、数か月前まで大学で遊び惚けていたヤツが急に店舗経営に関わる重責に加え、友達が一人もいない場所に放り出される事は初めての経験。
不安に押し潰されそうになっていた。

 

しかしそんな事は関係ない。それがコンビニエンス社員なのだ!!

 

どんな店長、上司、パートさんがいるのか分かるはずもなく想像だけが脳裏を巡る。
パワハラ店長だったらどうしよう・・・。
ノルマ至上主義上司だったらどうしよう・・・。
パートさんにいじめられたらどうしよう・・・。
怖い怖い怖い、めっちゃくちゃ不安なのだ!
それがコンビニエンス社員!!(何回もうるせー!)

 

 

果たして僕はコンビニエンスの仕事をやっていけるのだろうか・・・。初めてその地に降り立った時はもう真夜中。
大きな荷物をもって今から大変だなーとまるで人ごとの様に呟いて、しばらくお世話になるホテルの中に入った。