自由意志

日常のささやかな出来事を少しだけ面白く表現したい

コンビニエンスな日々② ~副店長着任~

前回からの続き

 着いた。

 

ここが今日から副店長として働く事になったコンビニエンスなお店だ。

緊張で心臓が張り裂けそうだ!

第一印象が大事だと自分に言い聞かせ、自動ドアが開く同時に

「おはようございます!今日から副店長として参りました、自由  意思と申します!これからよろくお願いします!」

と大きな声で叫んだ。

店内にお客さんはいなかったが、早朝のパートさんがポカンとしている。

うむ、それは正しいリアクションだ。

そう思った僕は笑顔でバックルームに向かった。

バックルームのスイング扉を勢いよく開き、先程同様に元気な挨拶をかました。

事務所には店長らしき人物が真剣にモニターとにらめっこしている。

 

・・・

 

聞こえていないのか??

おそるおそる、「はじめまして、自由 意思です。」と小声で囁くように言った。
店長らしき人は「うん」とだけ言い、手の平を見せつけるように片手でストップの合図を出して発注画面から目を逸らさずにいた。
よかった、一応気付いていた。とりあえず、待とう。

 

<コンビニエンスな注意①>

コンビニエンスにとって発注とは全てであり、失敗は許されない。
午前10時が発注の締めだが、8時~10時の間は戦争である。
発注アイテムは膨大な数に及ぶが、おにぎり、弁当、デザート、揚げ物、おでんのデイリー商品は特にミスは絶対に侵してはならない。
売上に直結するのはもちろんのこと、下手をするとお客様を失いかねず、最新の注意が必要だ。
特に締め時間前の30分は発注最優先の為、SV(上司)ですら電話してこない。
ましてや発注の途中で新人が登場しても相手にされないのも当然の事なのだ。

 

僕もこの事を知っており、発注を終えるのを待った。
すると、「ターン」とおそらく最後の発注確定ボタンの音が鳴り響いた。
「悪い悪い、発注がギリギリでさー。今やっと終わったよ。俺が店長の広田!よろしく」
おそらく店長だった人はやはり店長であった。

広田店長は中肉中背のイケメンでも不細工でもない、見た目は普通すぎるくらい普通の人。
強いて特徴をあげるなら、少しだけ人よりアゴが長かった。
外見、言葉遣い、態度を見ると心配していたパワハラ店長でもなさそうだ、アゴが長い程度で済んで内心で安堵した。

 

自由:右も左も分かりませんが、一生懸命頑張りますのでご指導のほどよろしくお願いします!!

 

広田:こちらこそよろしく。見ての通りウチのお店はボロボロでさ、やりがいあると思うよ。一緒に頑張ろう。

 

緊張で極端に視野が狭くなっていたのでスルーしていたが、言われてみるとバックヤードは全く整理出来ておらずぐちゃぐちゃだ。
事務所も書類は乱雑、廃棄処理していないおにぎりやお弁当の山。
それどころではなく、両替の途中なのか金庫のお金も出しっ放し。
もう手が付けられない程の有様。これが直営店?と疑いたくなるレベルだ。

 

<コンビニエンスな注意②>
コンビニエンス本部が運営する店舗の事を直営店という。
コンビニエンス社員=コンビニエンス本部社員なので、このお店も直営店ということになる。
直営店の存在理由としては、

・社員育成の場(現場を知る)

・オーナー、店長の疑似体験

・実験、取り組みの場

・フランチャイズ店の模範となる店舗

主にこのような事だ。
ちなみにコンビニエンス店舗数全体に占める直営店の割合は2%前後だ。
98%はフランチャイズ店、つまり本部社員ではなく、オーナーや会社が経営している。
フランチャイズというのは簡単に言うと、本部と加盟店の関係だ。
コンビニエンス本部はオーナーに経営ノウハウ、簿記会計システム、看板その他もろもろを提供し、オーナーは対価としてお金を支払う。(これが高額!!)

 

よく見たらバックルームだけに留まらず、売り場もボロボロやんけ!!
伸びしろしかないこのお店、だいぶ後になって知ったが、周辺でも有名なダメ店舗だった・・・。
意気揚々と乗り込んだ自由君であったが、本日は色々あり過ぎてホテルへ帰宅する頃にはボロボロになっていた。
こんな店、やっていけるんだろうか・・・。

 

 

~続く~